東京地方裁判所 昭和50年(ワ)7572号 判決
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【判旨】
一本件契約の成立について
1 亡稲葉が建築業者であつたこと、亡稲葉と被告らとの間に、本件建物新築工事に関する契約が締結されたこと、右契約には、右契約に基づく代金は、被告らが亡稲葉に対し、連帯して支払う旨の約定があつたことは、当事者間に争いがない。
2 <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 被告らは、昭和四六年四月ころから、現在本件建物の敷地となつている土地上に、地上四階半地下一階の鉄筋コンクリート造りの建物を建築する計画を有していたが、建築現場に入る道が狭く、鉄筋コンクリート造りにすると、建築資材の搬入・搬出が困難であることが分り、昭和四九年一〇月ころ、木造二階建で、外見は鉄筋コンクリート造りに見えるような建物を建築する計画に変更した。
(二) そして、被告昭は、同月ころ、亡稲葉に対し、右建物の新築工事代金の見積を依頼した。亡稲葉は、いつも使つている下職(下請人)に個々の工事の見積を依頼し、右工事代金は建坪一坪当り四〇万円になるという結論を得た。亡稲葉が被告昭に対し、坪四〇万円という右見積を伝えると、被告昭は、「しばらく考えさせてくれ。」と言つて亡稲葉に右工事を注文するか否かの結論を留保した。
(三) その後、しばらくして、被告昭は、亡稲葉に対し、「坪三一万円でやれるという業者がいるが、気にくわない。坪四〇万円という見積はもつと安くならないか。」と言つて来た。そして、何度か被告昭と亡稲葉の間で交渉が持たれたが、当時は建築資材の値上りの激しい時期でもあつたので、亡稲葉は、坪四〇万円以下で右工事を請負うことを拒み、「その代り、常傭でやれば、いくらか安くなるのではないか。」と提案した。
右「常傭」の意味は、(1)亡稲葉は、本件建物新築工事のうち、最も主要な工事である大工工事をなし、かつそれに付随する建築確認申請手続や各種付属工事の手配をする、(2)被告らは、大工工事については、大工一人一日七五〇〇円の計算による労賃総額と材料費の合計額を亡稲葉に支払い、亡稲葉の手配した建築確認申請手続や各種付属工事については、実費、すなわち亡稲葉が各業者から請求を受け、工事代金として合理的な金額と認めて支払つた金額を亡稲葉に支払う、(3)各種付属工事のうち、被告らの望むものは、亡稲葉の手配によらないで、被告ら自ら直接業者に注文することができる、というものであつた。右のような意味を有する常傭契約を提案した理由は、大工工事については、材料費の値上りを予想した高い請負代金を予め定める必要がなく、また、付属工事については、元請人としての亡稲葉の利益を加算しないので、本件建物新築工事代金全体としては、請負代金額を予め定めた全部請負よりも安くなる可能性が高く、その意味で被告らにとつて有利であること、建築資材の値上りの激しい時期であつたので、予め定めた請負代金額よりも実際の建築費の方が上回ることになる可能性もないとはいえないが、常傭とすると、右のような不安はなくなり、少くとも大工工事の労賃は確実に亡稲葉の収益となり、その意味で亡稲葉にとつても有利な面があるからであつた。そこで、被告昭も、最終的には常傭とすることに同意し、同年一一月ころ、常傭を内容とする本件契約が、亡稲葉と被告らの間に成立した。
被告らは、本件契約の内容は、亡稲葉が、建坪一坪当り二七万円以内の工事代金で本件建物新築工事全部を請負うというものであつたと主張し、被告清宮昭本人尋問の結果中には右主張に沿う供述部分もあるが、右供述部分は、前掲各証拠に照して措信できず、被告らの右主張は採用できない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
原告稲葉吉多郎本人尋問の結果によれば、本件契約においては、亡稲葉の手配した建築確認申請手続や各種付属工事について不備な点があつたら、亡稲葉が被告らに対して直接責任を負う約定であつたことが認められ、また、前記のとおり、本件契約においては、各種付属工事のうち、被告らの望むものは、亡稲葉の手配によらないで被告ら自ら直接業者に注文することができるとされており、原告稲葉吉多郎、同稲葉兼高、被告清宮昭各本人尋問の結果によれば、内装工事、外装(吹付)工事、鉄骨工事等は被告ら自ら直接業者に注文したことが認められる。
3 以上の事実を合せ考えると、本件契約は、大工工事(建築確認申請手続を含む。)及び別表(一)の1ないし15の工事についての各請負契約(部分的請負契約)の合さつたものであり、請負報酬は、前記認定のとおり、大工工事については、労賃総額と材料費の合計額、建築確認申請手続及び別表(一)の1ないし15の工事については、亡稲葉が各業者(下請人)から請求を受け、工事代金として合理的な金額と認めて支払つた金額となるものと約定されていたというべきである。
(牧野利秋 関野杜滋子 福田剛久)